ある朝ふと見ると、鉢のふちから白い根がにゅっと伸びている。
切ったほうがいいのかと、ハサミを手に迷った方もいるかもしれません。
こんにちは、長野の安曇野で洋ランを育てながら講座を開いている白石梨乃です。
先にお伝えすると、元気な根は切らなくて大丈夫です。
この記事では、残す根と切ってよい根の見分け方、増えすぎたときの付き合い方、これからの冬の守り方までお話しします。
鉢からはみ出した根は、胡蝶蘭のふだんの姿
講座でこの根の話をすると、「うちの子、病気ではなかったんですね」とほっとされる方がたくさんいます。
お祝いで届いた鉢は根まできれいに収まっているので、あとから伸びてきた根が異変に見えるのも無理はありません。
木につかまって暮らしていたころの名残り
胡蝶蘭は土の中ではなく、木の幹や枝に根を張って生きてきた着生植物です。
胡蝶蘭の専門店幸福の胡蝶蘭屋さんの解説でも、根が鉢から飛び出すのは正常な状態で、切る必要はないと説明されています。
鉢の外へ伸びる根は、体を支えたり、空気中の水分を取り込んだりする役目を持っています。
わたしも育てはじめたころは、整っていない姿が気になって仕方ありませんでした。
今では、白い根がのびのびと鉢の外へ出ていくのを見ると、この子は調子がいいのだなと思うようになりました。
乾くと銀色、濡れると緑になる不思議な根
胡蝶蘭の根の表面には、ベラメンと呼ばれるスポンジのような層があります。
ハワイなどに植物園を持つ米国国立熱帯植物園の解説によると、この層は水を蓄えて根を守るはたらきを持ち、乾いているときは銀色に、濡れると白っぽい緑色に見えます。
つまり、白い根を見て「枯れてきた」と心配しなくてもよいのです。
水やりのあとに根の色がすっと緑へ変わっていくようすは、何年見ていても飽きません。
この季節は、花芽とまちがえないように
晩秋から冬にかけては、胡蝶蘭が花芽を伸ばしはじめる時期でもあります。
葉の付け根から出てきた小さな突起を根だと思って切ってしまい、その年の花をあきらめた方の話を聞いたことがあります。
幸福の胡蝶蘭屋さんの解説では、花芽は上へ、根は下や横へ伸びるのが見分けの目安とされています。
ただ、上へ向かって伸びる根もあるので、迷ったら切らずに数週間待ってみてください。
少し伸びれば、どちらなのかは自然とわかってきます。
ハサミを持つ前に確かめたい、根のようす
切るかどうかは、色と手ざわりで決めます。
朝の水やり前など、鉢の中が乾いているときのほうが見比べやすいと思います。
色と状態で見分ける早見表
根の状態の目安を、表にまとめました。
| 根のようす | 考えられる状態 | どうするか |
|---|---|---|
| 緑色で張りがある | 水を含んだ元気な根 | 切らない |
| 白〜銀色で硬い | 乾いているだけの元気な根 | 切らない |
| きれいな茶色で、先が伸びている | 新しい根の場合がある | 切らない |
| 茶色くシワシワ | 傷みが進んだ根 | 傷んだ部分を切る |
| 黒く変色している | 根腐れが進んだ根 | 切って鉢の中も確認する |
| 中身がなくスカスカ | 役目を終えた根 | 傷んだ部分を切る |
茶色の根だけは少し注意が必要です。
品種によってはもともと茶色いものもあるので、色だけで決めず、次の手ざわりも合わせて見てください。
指でそっとつまんでみる
元気な根は、指でつまむと硬さと弾力が返ってきます。
傷んだ根は、ふにゃりとつぶれたり、表皮だけが残って中が空洞になっていたりします。
力を入れる必要はありません。
朝顔のつるにふれるくらいのやさしさで、十分に違いがわかります。
伸びている先端には触らない
伸びている根の先は、色が明るく、つやつやしています。
ここは根のなかでもとくにやわらかいところで、爪が当たっただけでも傷がつき、伸びが止まってしまうことがあります。
確かめるときは、先端から少し離れたところにふれるようにしてください。
切ると決めたら、傷んだところだけを
&Plantsの解説では、根が多すぎても元気な根は切らないように呼びかけています。
元気な根を切ると、根傷みや根腐れ、生育不良につながるためです。
見た目を整えるための長さ調整はせず、切るのは傷んだ根だけにしましょう。
切るときの手順
大切な株に刃を入れるのは緊張しますが、手順はむずかしくありません。
- ハサミの刃を火であぶるか消毒液で殺菌する(あぶった刃は冷めるまで待つ)
- 傷んだ部分と元気な部分の境目を確かめ、傷んだ部分だけを切り取る
- 別の株を続けて切るときは、そのたびにハサミを消毒する
- 切り口が乾くまでは、その根に水をかけないようにする
ハサミの消毒を欠かせないのは、切り口から菌が入るのを防ぐためです。
わたしは講座でも、鉢を替えるたびに刃を消毒するようお願いしています。
うっかり折ってしまったとき
鉢を動かした拍子に、元気な根をぽきりと折ってしまうことがあります。
わたしも掃除機のヘッドを当てて、何度か折ったことがあります。
そんなときは、消毒したハサミで折れ口を切りそろえ、あとは乾かしておけば大丈夫です。
ほかの根が元気なら、1本折れたくらいで株まで弱ることはまずありません。
黒い根を見つけたら、鉢の中も疑う
鉢の外の根に黒ずみが見つかったら、鉢の中も傷んでいる可能性があります。
葉のつやがなくなってきた、葉にシワが出てきた、植え込み材がカビくさい、水やりをしてもなかなか乾かない。
こうしたようすが重なるときは、鉢から抜いて根を確かめたほうが安心です。
回復までの手順は、胡蝶蘭を枯らしてしまった失敗談の記事にも詳しくあります。
増えすぎた根は、春の鉢替えで迎えなおす
切らなくていいとはいえ、根がタコの足のように何本も広がると、置き場所に困ることもあるでしょう。
そんなときは、鉢の中の窮屈さを疑ってみてください。
根が多いのは、鉢が小さくなったしるしかもしれない
外へ出る根があまりに多いときは、鉢の中で根が詰まっていることがあります。
根詰まりしてもすぐに枯れはしませんが、古い葉から黄色くなったり、葉が垂れたりする原因になります。
植え込み材そのものも古くなると水はけが悪くなるので、2〜3年に1回の植え替えがひとつの目安です。
また、ミズーリ植物園の植え替えガイドには、下葉が落ちて株が腰高になり、茎が弱ってきたときも植え替えの合図とあります。
外の根を、鉢の中へ押し込まない
わたしが一番後悔しているのは、この失敗です。
植え替えのとき、外に出ていた根を全部ぐるぐると巻いて鉢へ収め、すっきりしたと喜んでいました。
数か月後に鉢から抜いてみると、押し込んだ根の多くが茶色く傷んでいたのです。
&Plantsの解説によれば、空気中に出ていた根は鉢の中の根と性質が違うため、急に湿った水苔やバークの中へ入れると腐りやすくなります。
外の根は外に出したまま、鉢の中の根だけを植え込むのが正解でした。
しばらくして自分から植え込み材にもぐっていく根があれば、それはそのままで構いません。
植え替えは、今ではなく春に
幸福の胡蝶蘭屋さんの解説では、植え替えは4〜6月が目安とされています。
ミズーリ植物園のガイドにも、花が咲いているあいだは植え替えず、花が終わって新しい葉や根が動き出してから行うよう書かれています。
これから冬へ向かう今の時期に根が気になっても、大がかりな作業は春までとっておきましょう。
安曇野のわが家でも、冬のあいだは傷んだ根を整理する程度にして、鉢替えは木々の芽吹きを待ってからにしています。
冬のあいだ、外に出た根を守るには
鉢の外の根は、植え込み材に守られていないぶん、部屋の冷えや乾燥をじかに受けます。
この冬を元気に越してもらうために、わが家で気をつけていることをお伝えします。
夜の窓辺から、根を離しておく
根が窓ガラスに届きそうなほど伸びていたら、夜だけでも鉢を窓から離してください。
安曇野の冬の朝、窓に手を当てると、びっくりするほど冷たいものです。
胡蝶蘭の居場所の整え方は、置き場所についての記事にまとめてあります。
水やりの判断は、外の根でなく鉢の中で
ここはまちがえやすいところです。
外に出た根は乾きやすいので、白く見えても鉢の中はまだ湿っていることがよくあります。
根の色だけを見て水をあげると、鉢の中の根が水浸しになってしまいます。
水やりは、植え込み材が乾いているのを指で確かめてから。
冬の頻度は月に1〜2回が目安です。
暖房で部屋が乾くときは、午前中に外の根へ軽く霧吹きをしてあげると、乾きすぎを防げます。
葉の付け根に水がたまると傷みの原因になるので、たまったら柔らかい布で吸い取っておきましょう。
見た目が気になるときの工夫
伸びた根をどうしても目立たせたくないときは、切るよりも飾り方で解決できます。
- 口の広い鉢カバーに入れて、根が折れない余白をつくる
- 根が伸びているほうを壁側に向けて置く
- 人やカーテンが触れない、少し奥まった場所へ移す
根を茎に束ねて縛ったり、苔をかぶせて隠したりするのは、風通しが悪くなるのでおすすめしません。
わたしは今では、白い根が思い思いの方向へ伸びる姿も含めて、この花の個性だと感じています。
まとめ
鉢の外へ伸びる根は、胡蝶蘭が元気に暮らしているしるしです。
白や緑で硬い根はそのままにして、切るのは黒い根、シワシワの根、スカスカの根だけにしましょう。
ハサミは必ず消毒し、傷んだ部分にだけ刃を入れてください。
根が増えすぎて困ったら、春を待って鉢替えを。
そのときも、外の根は鉢に押し込まず、外へ出したままにしてあげます。
ハサミを手に取ったら、一度それを置いて、指で根にそっとふれてみてください。
ひんやりとした硬さが返ってきたら、その根はまだまだ働き者です。
今年の冬も、窓辺の小さな変化を一緒に楽しんでいきましょう。